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2024年11月7日(木)

ハモ由来コラーゲン含有化粧品に感作され、アナフィラキシーショックを生じたハモアレルギー

2024年11月7日(木)

去る10月に開催された日本皮膚科学会中部支部学術大会で、関西医大の田中翔先生はハモ由来コラーゲン含有化粧品に感作され、アナフィラキシーショックを生じたハモアレルギー症例を報告しておられました。

これまで魚アレルギーに関しては本コラムでも何度か述べてきましたし、魚アレルギーでは経皮感作が生じやすい事が良く知られています。しかし、多くの場合は魚類を扱う料理人や寿司職人の方の手指を介した経皮感作の報告であり、この症例の様に魚類を含んだ化粧品の塗布による感作例は余り聞いた事がありませんでしたし、魚類由来のコラーゲンを含んだ化粧品が存在しているという事にも驚いてしまいました。

また、魚類アレルギーはパルブアルブミンかコラーゲンを主たるアレルゲンとしていますが、これらのアレルゲンは程度の差はあれ全ての魚類に存在していますので、魚類アレルギーは一般的に多種の魚類に対して症状を発現します。しかし、この症例ではハモ、鰻、鮭、アナゴ、タラ、甘エビのプリックテストが陽性であったもののハモ以外の魚類の摂取では症状はきたしていませんでした。従って、魚類のコラーゲンでは魚の種類によってアレルギー能が異なる場合もあると考えられ、非常に示唆に富む報告だなあと感服したような次第でした。

2024年10月20日(日)

アトピー性皮膚炎の痒み軽減にプレガバリンが有効?

2024年10月20日(日曜日)

もう先月の話になりますが、元東京慈恵会医科大学皮膚科教授で現在はあたご皮膚科院長の中川秀己先生が神戸まで講演に来られたため、拝聴に伺いました。その際に、中川先生から“アトピー性皮膚炎の痒みの緩和にプレガバリンが有効だよ”という話を教えて頂きましたので、文献を探してみました。

プレガバリン(商品名リリカ®)は、本来は中枢神経系に直接作用して痛みを緩和する末梢神経障害性疼痛の治療薬ですが、プレガバリンが皮膚そう痒症や透析患者さんの痒みを緩和するという報告や、プレガバリンと同じくガバベンチノイドに属するミロガバリン(商品名タリージェ®)という薬剤がアトピー性皮膚炎モデルマウスにおいて痒みの緩和に有効だったとの報告が認められました。その作用機序については、痒みの伝達を担う神経は疼痛を伝達する神経と同様のC繊維であり、ガバベンチノイド系の薬剤はC繊維の活性化を阻害する作用を有しているためとの事でした。

本来はアトピー性皮膚炎に対しては適応外の薬剤ですので、おいそれと使用する訳にはいきませんが、今後有効性に関するエビデンスが確立して、使用が可能になれば喜ばしいなあと考えています。

 

2024年9月9日(月)

ミルクプロテイン飲料によるアレルギー

2024年9月9日(月)

近年、運動後の摂取によって筋肉合成が促進されるなどといった効果が実証され、ミルクプロテイン飲料が人気を博しているそうです。しかし、竹村らは小児用ミルクプロテイン製剤摂取後にアナフィラキシーを発症した9歳男児症例を報告しており(小児科.  2017;58:715-718)、時にはミルクプロテイン飲料の摂取によってもアレルギー症状をきたす場合はあるようです。但し、ここで特記すべき事はこの症例では通常量の牛乳の摂取は可能であったという点なのですが、その理由として牛乳中の乳蛋白量は22mg/ml、プロテイン製剤中の乳蛋白量は133mg/mlであり、プロテイン製剤1食中には牛乳1200ml分に相当する多量の乳蛋白が含まれていたとのことでした。

今回、私たちもこの症例と全く同様の経過の患者さんを経験しましたが、やはりミルクプロテイン飲料中には牛乳の約3倍量の乳蛋白が含有されている事を確認しました。従って、牛乳の摂取は可能である程度の弱い感作が生じているミルクアレルギーの患者さんにおいて、ミルクプロテイン飲料の摂取によってアレルギー症状を発現する危険性が存在しており、注意が必要であると思われます。

2024年8月6日(火)

蕁麻疹と抗TPO抗体

2024年8月6日(火曜日)

抗TPO抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)は甲状腺細胞の崩壊に伴う腫大(甲状腺腫)がみられる場合に最初に測定すべき抗体であり、バセドウ病の90%、橋本病のほぼ100%で抗TPO抗体は高値を示すとされています。また、以前から慢性蕁麻疹と橋本病との関連性は論じられており、杉山先生らによる集計では、検討した慢性蕁麻疹患者さん63名中17名(27%)で抗TPO抗体、抗Tg抗体(抗甲状腺サイログロブリン抗体)のいずれかまたは両者が陽性であり橋本病と診断されたものの、うち14例は甲状腺ホルモン値自体は正常であり、自己抗体のみが陽性の橋本病であったそうです(杉山晃子ほか:皮膚病診療. 2014;36:808-812.)。

という知識を踏まえた上で、7月末に大阪医科薬科大学皮膚科の福永 淳先生による蕁麻疹に関するご講演を拝聴しましたが、講演の中で福永先生は慢性蕁麻疹症例における抗TPO抗体測定の意義についてお話しされ、特に総IgEが低値でかつ抗TPO抗体陽性の慢性蕁麻疹患者さんの場合にはオマリズマブの効果が乏しい傾向があるとの画期的なデータについて発表しておられました。

私自身はこれまで慢性蕁麻疹患者さんに対して抗TPO抗体を測定することは行っていませんでしたが、今後抗TPO抗体や抗Tg抗体も測定することも望ましいかも知れませんね。

2024年7月7日(日)

齧歯類の小動物咬症後に生じるアナフィラキシーショック

2024年7月7日(日)

齧歯類とは、物を齧るのに適した上顎下顎に伸びる門歯を有した小動物を指し、ネズミ、モルモット、ハムスター、リスなどが齧歯類に属します。そして、齧歯類の小動物に咬まれた後に、時にアナフィラキシーショックなどのアレルギー症状が発現する場合があり、過去にはハムスターによる症例が数多く報告されています。この度私はプレーリードッグに咬まれた後にアナフィラキシーショックをきたした患者さんを経験したため、齧歯類の小動物咬症後に生じるアレルギー反応に関して少々勉強してみましたので、今回はその内容について説明してみます。

齧歯類の小動物咬症後に生じるアレルギー反応の原因アレルゲンは、主として分子量60〜70kDaのアルブミンと分子量約20kDaのリポカリンとの2種類に大別されます。このうち、アルブミンでは各動物間できわめて高い構造的類似性があるため広範な交差反応性を示すのに対して、リポカリンは種ごとに独立性の高い抗原性を示すアレルゲンと考えられています。そのため、リポカリンが原因アレルゲンであった場合には反応を生じた小動物以外の種にはそれほど留意しなくても構わないのですが、アルブミンが原因アレルゲンであると同定された場合には、特に齧歯類の他の小動物に咬まれた場合にも反応をきたす可能性があるため、他の小動物との接触も避けることが必要であると考えられます。

2024年6月11日(火)

眼瞼の症状から予測する食物アレルギー

2024年6月11日(火曜日)

去る6月6日〜9日に京都国際会館で日本皮膚科学会総会が開催され私も出席してきましたが、今回はその学会での講演の中から興味深い話題を紹介することにします。

昭和大学医学部皮膚科教授の猪又直子先生は「眼瞼の症状から予測する食物アレルギー」とのタイトルでご講演を行われましたが、眼瞼の浮腫を特徴とする食物アレルギーの代表は、かつて社会問題になった加水分解小麦含有石鹸の使用により生じる小麦アレルギー症例であるとの事でした。また、花粉感作が先行して発症する花粉〜食物アレルギー症候群においても、特に豆乳によるアナフィラキシーや2018年6月、2020年1月、2023年11月の本コラムでも紹介したGRP (Gibberellin-regulated protein)を原因アレルゲンとするモモや梅干しアレルギーの場合には眼瞼の浮腫の臨床像を呈しやすいそうです。さらに、赤みを帯びた食品摂取後に眼瞼浮腫を生じた症例と遭遇した場合には、コチニール色素によるアレルギーを疑う必要があるとの事でした。

これまで私には、この様に生じる臨床症状から原因となる食物アレルゲンを推測するという発想はありませんので、猪又教授のご講演は大変興味深く感じました。

2024年5月13日(月)

デュピルマブはコリン性蕁麻疹に対しても有効なのか?

2024年5月13日(月曜日)

デュピルマブ(商品名:デュピクセント)という薬剤は、アトピー性皮膚炎の治療薬として当院でも多くの患者さんに対して使用しています。ところが、2024年2月にデュピルマブは慢性特発性蕁麻疹に対する適応承認を追加取得し、慢性特発性蕁麻疹の患者さんに対しても使用が可能になりました。

慢性特発性蕁麻疹に対してはガイドラインからもある程度治療法は確定しており、まず最初は抗ヒスタミン薬を1剤用いますがそれでも新たな膨疹の出現を抑制出来ない場合には、1)抗ヒスタミン薬を倍量処方とするかまたは通常量×2剤を使用する、2)H2ブロッカーまたは抗ロイコトリエン剤を併用する、というのが通常の治療法であり、私自身もこの方法に準じて処方を行っています。それでもなお膨疹を完全に抑えきれない場合には、これまでにはオマリズマブ(商品名:ゾレア )という注射薬を併用して、この方法によって私自身も大部分の患者さんに対して蕁麻疹の出現を完全に抑制することが出来ています。ただ、私の個人的な経験では唯一コリン性蕁麻疹の患者さんに対してはオマリズマブを追加投与しても有効性は乏しいとの印象を抱いています(あくまでも私の個人的な印象ですが)。

ところが、この度Sirufo MMらは、1例報告ではあるものの、デュピルマブを追加する事によって膨疹の出現を完全に抑制しえたコリン性蕁麻疹の26歳男性症例を報告しており(Sirufo MM et al:Clinical、Cosmetic and Investigational Dermatology. 2022;15:253-260.)、蕁麻疹のうちで最も治療が困難なタイプであるコリン性蕁麻疹に対しても、もしかするとデュピルマブが有効であるとの可能性も期待出来そうです。もし可能であれば、今後症例を蓄積して有効性を確認していきたいと考えています。

2024年4月9日(火)

オマリズマブ(ゾレア® )は食物アレルギーの発症を低減化しうるか?

2024年4月9日(火曜)

オマリズマブ(ゾレア® )とは抗IgE抗体の注射薬であり、現在難治性の慢性蕁麻疹の治療薬として私たちも頻用しています。ところが、この度オマリズマブが食物アレルギーの発症を低減化しうるとの画期的な報告がニューイングランド医学部ジャーナルに発表されました。

米国国立アレルギー感染症研究所の研究によると、ピーナッツアレルギーを有する180人の患者に対して16週間〜20週間の期間オマリズマブ注射群とプラセボ注射群に2分して効果を比較したところ、オマリズマブ投与群の67%が600mg以上、さらに約50%は6044mg(ピーナッツ25個分)のピーナッツの摂取が可能になったのに反して、プラセボ投与群では600mg以上のピーナッツが摂取可能になったのは6.8%のみとの有効性の差が認められました。

反面、オマリズマブ投与群の14%は僅か30mgのピーナッツを摂取する事もできなかったため、オマリズマブの有効性についてはより大規模な研究を行う事が必要であるとの見解を論じていますが、何れにしても食物アレルギーで悩んでいる患者さん達にとってはこのデータは朗報と言えるでしょうね。

2024年3月5日(火)

ネギ属アレルギーの原因抗原もLipid Transfer proteinなのか?

2024年3月5日(火曜日)

近年Lipid Tranfer Protein(LTP)というアレルゲンに注目が集まっているという話は2022年7月の本ブログで述べました。また、ネギ属(ネギ、タマネギ、ニンニク、ニラなど)に対するアレルギーについては2022年11月の本ブログで紹介し、その際にはネギ属アレルギーの原因抗原として、Alliinase(alliin lyase)またはmannose-binding lectinが代表的なアレルゲンであると考えられている事についてお話しました。

しかし、この度私自身もネギ属アレルギーの患者さんを経験したためネギ属アレルギーに関する論文を集中的に読んでみたところ、LTPがネギ属アレルギーの発症に関与している事を論じた論文が意外に多く存在している事に気づきました。一例を挙げますと、モモから抽出したLTPとタマネギに対して陽性反応を示したタマネギアレルギーの45歳男性症例を報告した論文(Asero R et al:J Allergy Clin Immunol. 2001;108:309-)、モモLTPのPru p 3によって阻害が認められたタマネギアレルギーの22歳女性症例を報告した論文(Enrique E et al:Ann Allergy Asthma Immunol. 2007;98:202)、モモ抽出物で約30%阻害されたが、既知のアレルゲンのうちで熱耐性を有しているのはLTPでのみであるため、LTPが原因アレルゲンであろうと考えた加熱したタマネギ摂取後にアナフィラキシーを発症した35歳男性症例を報告した論文(Albanesi M et al:Adv Dermatol Allergol.2019;36:98-)などが認められました。

これまでLTPは主に果物類などの原因アレルゲンと考えられてきましたが、ネギ属アレルギーの発症にも関与しているとなると、今後LTPの重要性についてますます注目していく必要がありそうですね。

2024年2月12日(月)

IL-4とIL-13では果たしてどちらが重要なのか?

2024年2月12日( 月曜日)

アトピー性皮膚炎の発症に強く関与しているサイトカインとしてIl-4とIL-13との2種類が挙げられますが、この両者間では果たしてどちらがより強くアトピー性皮膚炎の発症に関与しているのでしょうか?先日、IL-13阻害薬であるTralokinumabの全国講演会に参加してきましたので、今回はこの講演会で学んだ知識について紹介したいと思います。

本講演会で九州大学皮膚科教授の中原剛士先生は、IL-4およびIL-13は共にフィラグリンの産生抑制をはじめとする皮膚バリア機能の低下を引き起こすものの、IL-4は主に二次リンパ組織などの中枢で機能するサイトカインであるのに対して、IL-13は主に皮膚局所などの末梢で機能するサイトカインである事を示されました(西日皮膚. 2023;85:5〜15.)。また、アトピー性皮膚炎の非病変部および病変部では正常皮膚に比べてIL-13遺伝子の過剰発現が認められるものの、反面IL-4遺伝子はアトピー性皮膚炎の病変部においてもほとんど認められなかったとのデータ(Koppes SA et al:Int Arch Allergy Immunol. 2016;170:187-193.)や、アトピー性皮膚炎患者の病変部におけるIL-13遺伝子の発現量は急性期に比べて慢性期で増加するのに対して、IL-4遺伝子の発現量は急性期に比べて慢性期では減少すとのデータ(Gittler JK et al:J Allergy Clin Immunol. 2012;130:1344-1354.)も存在しているそうです。

このようなデータから総合的に判断すると、どうやらアトピー性皮膚炎に最も深く関わっているサイトカインはIL-13であると結論づけることが出来そうですね。

   

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