2020年5月17日(日曜日)
コロナ禍によって、相変わらずひたすら辛抱の日々が続いています。
それに加えて、我々医者にとっては普段は頻繁に開催される講演会や勉強会に出席することで新たな知識を得る事に努めていますが、コロナ禍の影響で講演会や勉強会も一切中止となってしまい、勉強の機会も減少してしまっています。
そこで、本を読んで勉強しようと、送られてきたアレルギー学会の学会雑誌である「アレルギー」誌を精読してみました。
興味深い論文が多数掲載されていましたが、その中で今回は馬場記念病院皮膚科の林 綾乃先生による「琵琶湖のコアユによるアナフィラキシーの1例」との論文を紹介したいと思います。
魚アレルギーには私も随分興味があり論文を書いたりもしてきましたが、現在魚アレルギーの主要蛋白抗原としては、1)パルブアルブミン(Gad c 1)、2)コラーゲン、の2種類の蛋白が同定されています。
しかし、共に程度の差はあれ全ての種類の魚に含有されていますので、真の魚類アレルギーの患者さんは魚類を食べると必ずアレルギー症状を発症するという事になります。
ところが、現実的には魚を食べてアナフィラキシーを発症する患者さんにおいても、魚類摂取後に必ずアレルギー症状を生じる訳ではない場合が大部分であり、この場合はほとんどが魚類の体腔に存在しているアニサキスという小さな虫(線虫)に対するアレルギー反応であって、たまたまアニサキスを含有した魚の切り身を食べた場合のみに症状が発現すると考えられています。
反面、淡水魚や養殖海産物にはアニサキスはほぼ存在していないと考えられていますので、林先生が報告された琵琶湖のコアユ摂取後に限ってアナフィラキシーを発症するというケースは、これまでの魚アレルギーの概念に当てはめると極めて稀という事になります。
実際、林先生の研究結果でも、この症例ではパルブアルブミンやコラーゲンが原因蛋白であった可能性は否定的であり、「本症例の主要原因抗原はコアユ特有の新規アレルゲンであると推測した」と結論付けておられます。
アレルギーの世界でも、この様な未知の抗原の関与が疑われる症例が報告されており、本当に興味が尽きません。