2010年4月18日(日曜日)
プロトピック軟膏という塗り薬を御存知でしょうか?
アトピー性皮膚炎の治療薬として1999年に発売された外用剤ですが、①免疫抑制剤であること、②発売前のマウスによる実験で発癌性が高まるとのデータが認められたこと、などの点から発売当初は私たちもおっかなビックリ状態で使用を開始しました。しかし、①発売して12年経過した現在、現実的には塗布によって皮膚癌を生じたケースは認められない点、②ステロイド外用剤で生じやすい皮膚萎縮などの副作用はきたさない点、③特に成人型アトピー性皮膚炎の患者さんの難治性の顔面紅斑に有効である点、などが評価されて、最近では私たちも患者さん達に対して、“ステロイド外用剤よりもよっぽど普段使いしても構いませんよ”と説明してきました。
しかし、今年の3月にちょっと困った事態が生じてしまいました。“FDAというアメリカの食物や薬剤の諮問機関が、プロトピック軟膏の使用によって46人の小児が癌を発症したとのデータを報告した”との記事が日本の各新聞に大々的に報道されたのです。この記事を御覧になったプロトピック軟膏使用中の患者さん達は“本当にこのままプロトピック軟膏の使用を続けて構わないのですか?”と心配されますし、私たちにとっても寝耳に水の話であり、どのように対応したら良いのか困り果ててしまいました。
ちょうどそんな折、昨日から今日にかけて大阪国際会議場で日本皮膚科学会総会が開催され、私も土曜日の診察終了後直ちに学会場へと向かいました。本日の午前中の軟膏療法のセッションでは、まさしくこのプロトピック軟膏に関する話題が議論されましたが、この46名の患者さん達の中には、生まれながらのホクロが癌化した症例や、プロトピック軟膏外用開始以前からリンパ腫を発症していた症例などの、発癌とプロトピック軟膏使用との因果関係が明らかではないケースも多く含まれているそうです。結局、FDAは“2歳未満の小児へのプロトピック軟膏の使用は控えるべき”との警鐘を唱えたのに過ぎないのが、日本では過剰に報道されたというのがどうやら真相のようです。
目下日本皮膚科学会では米国の皮膚科医達の見解を求めているとの事でしたが、プロトピック軟膏使用中の患者さん方も、とりあえずは必要以上の心配をされる事なく外用を続けて頂いて構わないようです。