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2023年11月

2023年11月8日(水)

GRPアレルギーに関する新知見

2023年11月8日(水曜日)

今回も、先月に開催された日本アレルギー学会学術大会で発表された報告から引用させて頂くことにします。

GRP(gibberellin-regulated protein)アレルギーに関しては、2018年6月、2020年1月の本コラムでも述べてきましたが、果物類によるアレルギーの原因アレルゲンとして最近注目されており、特にスギやヒノキの花粉類と交差反応を有しているという点が注目されています。GRPアレルギーの臨床的特徴として、以前に昭和大学皮膚科の猪又直子先生は、1)成人に多く、小児における発症は稀である、2)PR-10やprofilinとは無関係である、3)特に柑橘系果物(モモ、アプリコット、サクランボなど)を中心に多種の果物類アレルギーを発症しうる、4)しばしばアナフィラキシーを発症し、また顔面特に眼瞼腫脹はGRPの感作を予見しうる徴候である、5)時に運動やアスピリン摂取などの共因子が発症に必要である、といった点を挙げておられます(Inomata N:Allergol Intern. 69;2020:11-18)。今回の学会で、順天堂大学小児科の奈須先生達のグループは多種の果物類接種後に食物依存性運動誘発アナフィラキシー様の臨床経過を示した13歳女子症例を、また藤田医科大学ばんたね病院総合アレルギー科の二村先生達のグループは32例のGRPアレルギー症例を集計した結果、1)重症な臨床症状をきたす場合が多い、2)スギ花粉抗原との交差反応性が強い、との報告をなされており、いずれの発表も猪又先生の見解を支持する結果となっていました。

今後、GRPはますます重要な果物アレルギー抗原として認知されると予想され、我々も目を離さずに注目していきたいと考えています。

 

 

2023年10月24日(火)

Pork-Cat Syndromeと牛乳との関連性

2023年10月24日(火曜日)

去る10月20日〜22日に東京国際フォーラムで第72回日本アレルギー学会学術大会が開催されました。私は現地参加することは叶わなかったのですがWebで聴講しましたので、今月から数回は本学会で学んだ新知見について紹介することにします。

Pork-Cat Syndromeに関しては、2017年8月の本コラムで紹介しました。ネコの毛やフケに含まれる血清アルブミン(Fel d 2)に経気道的に感作された後、類似した蛋白構造を有する豚の血清アルブミンであるSus sとの間で交差反応を生じ、豚肉摂取によってアレルギー反応を発症するという疾患です。これだけでも、一見全く無関係と思われるネコの毛やフケと豚肉との間に交差反応性が存在しているいうことに対してビックリなのですが、本学会で小松病院の武輪先生たちのグループはさらに牛乳とも交差反応性を有したPork-Cat Syndrome症例を報告され、牛乳とネコの毛との関係が交差反応に起因していることをimmunoblot阻害試験によって実証されました。従って、今後Pork-Cat Syndromeの患者さんを経験した場合には牛乳にも留意する必要があると考えられます。この様に、全く関係ないと考えられる因子間での交差反応の報告が増加しており、アレルギーに関する“謎”はますます深まるばかりで興味が尽きません。

 

2023年9月11日(月)

モヤシアレルギーについて

2023年9月11日(月曜日)

先日送られてきた「アレルギー」誌2023年8月号では東京医科大学皮膚科の小林先生による「緑豆もやしによるアレルギーの2例」との論文が掲載されており、また9月9日にwebで拝聴した日本皮膚科学会大阪地方会では神戸市立医療センター中央市民病院皮膚科の藤井先生が「もやしアレルギーの2例」との学会報告を行われていたため、“最新よくモヤシアレルギーの報告に遭遇するなあ”と考えているうちに、私自身も過去にモヤシアレルギーについて論文を書いていた事を思い出しました。という次第で、今回はモヤシアレルギーについてお話する事にします。

モヤシには主として、1)大豆モヤシ、2)緑豆モヤシ、3)ブラックマッペモヤシの3種類が存在していますが、近年は緑豆モヤシおよびブラックマッペモヤシの消費量が多いとされています。我が国では特にモヤシは日常的に頻繁に摂取されている食材ですが、過去にモヤシによるアレルギー症例の報告は意外に少ないとの現状です。さらに、過去の報告の大部分は花粉類に対するアレルギーを有しており、かつ他の果物〜野菜類や湯葉・豆腐料理・豆乳などの大豆製品の摂取後にもアレルギー反応を呈していたことより、モヤシ摂取後に生じるアレルギー反応も、花粉類との交差反応により生じる、いわゆるpollen-food allergy syndromeの機序に基づくクラス2食物アレルギーと考えられています。花粉類との交差反応をきたす原因抗原に関しては、既報告ではBet v 1(PR-10蛋白)およびBet v 2(prpfilin)の両者の可能性が報告されており、未だ一定の結論は得られていません。

という次第で、これまでには稀でしたが、最近報告が増加している傾向がありそうですので、モヤシに対するアレルギーが存在していると留意しておくことが必要だと思われます。

 

2023年8月10日(木)

カシューナッツアレルギー

2023年8月10日(木)

先月はクルミアレルギーについて述べましたが、今月はクルミに次いで発症が増加していることが危惧されているカシューナッツアレルギーについて論じることにします。

カシューナッツアレルギーの特徴としては、1)花粉類との交差反応ではなく、それ自身の摂取によって感作が生じる、2)ピーナッツアレルギーなどと比較して、アナフィラキシー ショックなどの重篤な症状をきたす場合が多い、という点が考えられています。また、同じナッツ類であるピスタチオおよび増粘多糖類であるペクチンとの間に強い交差反応性が存在しているため、カシューナッツアレルギーの患者さんはピスタチオおよびペクチンの摂取にも気をつける必要があります。

さらに、食品の原料として含まれている場合には予防が困難であり、過去に海老マヨ、キャラメルクリーム味のシュークリーム、バターチキンカレーパンなどの中に含まれていたカシューナッツによるアレルギー発症例が報告されています。また、カレー摂取後に生じたアナフィラキシー では通常セリ科のスパイスによるアレルギーの可能性を疑いがちですが、益海らはスパイスなどを多くは含まない小児用カレーの摂取によってアナフィラキシー をきたした場合には、まずカシューナッツなどの種実類を含んでいないかをチェックする必要があると論じています。

もし心当たりがある方は、近年増加傾向にあるカシューナッツ アレルギーの可能性を疑って留意して下さい。

2023年7月13日(木)

クルミの食物アレルギー表示義務化について

2023年7月13日(木)

2023年3月9日に食物表示基準が改正され、クルミが表示推奨から表示義務へと変更になりました。特定原材料の見直しは、2008年にエビ・カニが表示義務化して以降15年ぶりですが、これで表示義務の食品はエビ、カニ、クルミ、小麦、ソバ、卵、乳、ピーナッツの8項目となりました。

その背景としては、近年のクルミアレルギーの報告例の増加が挙げられ、アナフィラキシーショック発症数は2012年にはクルミは第10位であったのに対して、2018年には鶏卵・牛乳・小麦に次いで第4位にまで上昇してきました。ちなみに、ナッツ類の中で近年クルミに次いでカシューナッツのアレルギー増加率が顕著であるため、カシューナッツに関しても可能な限り表示するように推奨されています。

このように表示が義務化されたことはクルミアレルギーの患者さんにとっては朗報ですが、クルミやカシューナッツなどのナッツ類は食品の原料として含まれている場合が多く、そのため外食でクルミやカシューナッツを含む食品を摂取した場合などには予防の術がなく、誤食してしまう危険性が残されています。今後は、このような点に対する更なる対策も必要ではないかと考えています。

2023年6月6日(火)

IL-13阻害薬の有効性は?

2023年6月6日(火曜日)

アトピー性皮膚炎の発症に関与した主たるサイトカインはIL-4とIL-13であると考えられており、実際この2種類のサイトカインによる反応を抑制するデュピルマブ(商品名:デュピクセント®)という薬剤は、当院でも多くの患者さんに対して使用しており高い有効性を示しています。

さらに、この両者のうちのIL-13のみに的を絞った阻害薬に関する研究が進んでいます。しかし、IL-4とIL-13との両者を阻害する薬剤と比べて、IL-13のみを阻害する薬剤では有効性は乏しいのではないかと考えがちですが、米国ポートランド州のOregon Health &Science University皮膚科のSimpson先生たちのグループは、IL-13阻害薬であるLebrikizumabと外用ステロイド剤とを併用する事で高い有効性を示したとの結果を報告しておられます。Lebrikizumabは本邦では未発売ですが、同じIL-13阻害薬であるTralokinumabという製剤は近日中に本邦でも発売予定です。IL-4とIL-13との両者を阻害する薬剤と比較して、高親和性にIL-13のみを強力に阻害する薬剤はどの程度の有効性を示すのかという点に関しては私たちも興味津々ですが、いずれにしてもこのようにアトピー性皮膚炎の治療薬の選択肢が増えていくことは大いに歓迎すべきことですね。

 

2023年5月9日(火)

アブラガレイアレルギー

2023年5月9日(火曜)

今月もまたまた、私が編集企画を務めさせて頂きました「MB Derma   食物アレルギー診療〜開業医の立場での展開〜」で投稿をお願いした内容から引用させて頂きます。

大分県杵築市にある伊藤皮膚科の伊藤宏太郎先生はアブラガレイアレルギー症例を報告して下さいましたが、本症例ではアブラガレイ摂取後にアレルギー症状をきたし、アブラガレイのプリックテストも陽性だったのですが、大変興味深い事にその他の魚類は全て特に問題なく摂取可能であったとの経緯でした。

本ブログではこれまでにも、パルブアルブミンとコラーゲンとの2種類が魚類アレルギーにおける主要なアレルゲンであること、さらに2021年2月には魚アレルギーの新規アレルゲンとしてmyosin heavy chainという抗原が存在していること、2022年4月には重症の魚アレルギーではコラーゲン特異的IgE陽性例が多いこと、などを報告してきましたが、これらの抗原はいずれも複数の魚類に対して抗原性を有する蛋白であり、感作された患者さんではほぼ全ての魚類の摂取が不可能になります。

それに対して、伊東先生の症例はアブラガレイ単独に対するアレルギーであったという事を特徴とします。本論文では原因となるアレルゲンの同定までは成し得なかったとのことでしたが、恐らくこの症例の原因となるアレルゲンはパルブアルブミン、コラーゲン、myosin heavy chainのいずれとも異なる新規アレルゲンであるとの可能性が疑われます。という次第で、魚アレルギーの世界もまだまだ奥が深いですね。

2023年4月11日(火)

ヒマワリの種による即時型アレルギー

2023年4月11日(火曜日)

手前味噌になりますが、MB Dermaという皮膚科の雑誌の2023年3月号では、「食物アレルギー診療〜開業医の立場での展開〜」とのテーマで、私が編集企画を務めさせて頂きました。本企画は、開業医の先生方によってなされた珍しい食物アレルギーの報告例をまとめたものでしたが、その中には私自身も過去に経験のない食物抗原による報告もありましたので、そのような症例を紹介したいと思います。

まず今月は、愛媛県松山市のわたなべ皮ふ科形成外科院長の渡部裕子先生が報告された、ヒマワリの種による即時型アレルギーについて述べることにします。

ヒマワリの種による即時型アレルギーには、1)ヒマワリの種を食べることによって発症する経口感作、2)小鳥・ハムスターなどの小動物を飼育している人が、餌として与えていたヒマワリの種を手で触れることにより生じる経皮感作、または吸入することにより生じる経気道感作、3)同じキク科の植物であるヨモギ花粉との交差反応によって、花粉食物アレルギー症候群の機序で生じるアレルギー反応、など異なった複数の感作経路が報告されているそうです。私自身もこのようなアレルゲンについては知りませんでしたが、食生活の変化、ペットブーム、花粉症の増加などに伴ってヒマワリの種による即時型アレルギーは増加する可能性があり、ヒマワリの種は即時型アレルギーの原因として今後注目すべきアレルゲン食品のひとつであるとの事でしたので、皆様方もどうぞご留意下さい。

2023年3月6日(月)

セリ科スパイスアレルギーとマメ科スパイス(フェヌグリーク)アレルギーとの合併

2023年3月6日(月曜日)

2022年12月の本コラムにおいて、スパイスアレルギーというと通常はセリ科スパイスアレルギーと考えがちですが実際には必ずしもそうではなく、集計した7例のスパイスアレルギー中4例はセリ科スパイスアレルギーだったものの、残りのうちの2例はマメ科のフェヌグリークによる感作であったという内容の藤田医科大学佐藤先生によるご報告を紹介しました。

これに関連して、昨年12月に開催された日本皮膚免疫アレルギー学会では、昭和大学の三浦先生がカレーアレルギーの中にはクミン・コリアンダーなどのセリ科スパイスアレルギーとマメ科スパイスであるフェヌグリークアレルギーとを合併した症例が存在していることを報告されました。この両者のアレルギーが併発する機序に関しては定かではありませんが、過去に報告されたフェヌグリークアレルギー8症例のうち1症例ではクミンのアレルギーを合併していたとの事でしたので、個別感作ではなく交差反応によって発症したとの可能性も否定は出来ません。

という次第で、今後はマメ科のフェヌグリークによるスパイスアレルギーの発症に注目して留意しておく必要がありそうです。

2023年2月6日(月)

コチニールアレルギーの新たな発症機序

2023年2月6日(月曜日)

今回も、昨年12月に開催された日本皮膚免疫アレルギー学会での発表内容から紹介させて頂きます。

コチニール色素アレルギーに関しては、2014年12月の本コラムで述べさせて頂きました。コチニールとはカイガラムシ科エンジムシの乾燥虫体から得られる天然の赤色色素ですが、これまでコチニール色素に対するアレルギーはコチニール色素を含有した化粧品の使用によって感作が生じるため、日常的に化粧を行う成人女性に限局して発症すると考えられてきました。ところが、2020年に、甲南医療センター小児科の平瀬先生らは化粧歴のない8歳男児に生じたコチニールアレルギー症例を報告され、さらに今回の日本皮膚免疫アレルギー学会で藤田医科大学の中村政志先生たちは2016年以降に確認されたコチニールアレルギー16例を集計されたところ、うち2例は未成年の男性症例(うち1例は上記の平瀬先生報告例)であったということでした。そのため、コチニールアレルギーの発症機序として、化粧品以外の感作経路も検討する必要があるとの注意喚起を行っておられました。

これまで私も数例のコチニールアレルギーの患者さんを経験したものの全員が成人女性でしたが、今後は成人女性以外でもコチニールアレルギーは起こりうるという事を心の片隅に留めておかないといけないですね。

   

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