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2024年6月

2024年6月11日(火)

眼瞼の症状から予測する食物アレルギー

2024年6月11日(火曜日)

去る6月6日〜9日に京都国際会館で日本皮膚科学会総会が開催され私も出席してきましたが、今回はその学会での講演の中から興味深い話題を紹介することにします。

昭和大学医学部皮膚科教授の猪又直子先生は「眼瞼の症状から予測する食物アレルギー」とのタイトルでご講演を行われましたが、眼瞼の浮腫を特徴とする食物アレルギーの代表は、かつて社会問題になった加水分解小麦含有石鹸の使用により生じる小麦アレルギー症例であるとの事でした。また、花粉感作が先行して発症する花粉〜食物アレルギー症候群においても、特に豆乳によるアナフィラキシーや2018年6月、2020年1月、2023年11月の本コラムでも紹介したGRP (Gibberellin-regulated protein)を原因アレルゲンとするモモや梅干しアレルギーの場合には眼瞼の浮腫の臨床像を呈しやすいそうです。さらに、赤みを帯びた食品摂取後に眼瞼浮腫を生じた症例と遭遇した場合には、コチニール色素によるアレルギーを疑う必要があるとの事でした。

これまで私には、この様に生じる臨床症状から原因となる食物アレルゲンを推測するという発想はありませんので、猪又教授のご講演は大変興味深く感じました。

2024年5月13日(月)

デュピルマブはコリン性蕁麻疹に対しても有効なのか?

2024年5月13日(月曜日)

デュピルマブ(商品名:デュピクセント)という薬剤は、アトピー性皮膚炎の治療薬として当院でも多くの患者さんに対して使用しています。ところが、2024年2月にデュピルマブは慢性特発性蕁麻疹に対する適応承認を追加取得し、慢性特発性蕁麻疹の患者さんに対しても使用が可能になりました。

慢性特発性蕁麻疹に対してはガイドラインからもある程度治療法は確定しており、まず最初は抗ヒスタミン薬を1剤用いますがそれでも新たな膨疹の出現を抑制出来ない場合には、1)抗ヒスタミン薬を倍量処方とするかまたは通常量×2剤を使用する、2)H2ブロッカーまたは抗ロイコトリエン剤を併用する、というのが通常の治療法であり、私自身もこの方法に準じて処方を行っています。それでもなお膨疹を完全に抑えきれない場合には、これまでにはオマリズマブ(商品名:ゾレア )という注射薬を併用して、この方法によって私自身も大部分の患者さんに対して蕁麻疹の出現を完全に抑制することが出来ています。ただ、私の個人的な経験では唯一コリン性蕁麻疹の患者さんに対してはオマリズマブを追加投与しても有効性は乏しいとの印象を抱いています(あくまでも私の個人的な印象ですが)。

ところが、この度Sirufo MMらは、1例報告ではあるものの、デュピルマブを追加する事によって膨疹の出現を完全に抑制しえたコリン性蕁麻疹の26歳男性症例を報告しており(Sirufo MM et al:Clinical、Cosmetic and Investigational Dermatology. 2022;15:253-260.)、蕁麻疹のうちで最も治療が困難なタイプであるコリン性蕁麻疹に対しても、もしかするとデュピルマブが有効であるとの可能性も期待出来そうです。もし可能であれば、今後症例を蓄積して有効性を確認していきたいと考えています。

2024年4月9日(火)

オマリズマブ(ゾレア® )は食物アレルギーの発症を低減化しうるか?

2024年4月9日(火曜)

オマリズマブ(ゾレア® )とは抗IgE抗体の注射薬であり、現在難治性の慢性蕁麻疹の治療薬として私たちも頻用しています。ところが、この度オマリズマブが食物アレルギーの発症を低減化しうるとの画期的な報告がニューイングランド医学部ジャーナルに発表されました。

米国国立アレルギー感染症研究所の研究によると、ピーナッツアレルギーを有する180人の患者に対して16週間〜20週間の期間オマリズマブ注射群とプラセボ注射群に2分して効果を比較したところ、オマリズマブ投与群の67%が600mg以上、さらに約50%は6044mg(ピーナッツ25個分)のピーナッツの摂取が可能になったのに反して、プラセボ投与群では600mg以上のピーナッツが摂取可能になったのは6.8%のみとの有効性の差が認められました。

反面、オマリズマブ投与群の14%は僅か30mgのピーナッツを摂取する事もできなかったため、オマリズマブの有効性についてはより大規模な研究を行う事が必要であるとの見解を論じていますが、何れにしても食物アレルギーで悩んでいる患者さん達にとってはこのデータは朗報と言えるでしょうね。

2024年3月5日(火)

ネギ属アレルギーの原因抗原もLipid Transfer proteinなのか?

2024年3月5日(火曜日)

近年Lipid Tranfer Protein(LTP)というアレルゲンに注目が集まっているという話は2022年7月の本ブログで述べました。また、ネギ属(ネギ、タマネギ、ニンニク、ニラなど)に対するアレルギーについては2022年11月の本ブログで紹介し、その際にはネギ属アレルギーの原因抗原として、Alliinase(alliin lyase)またはmannose-binding lectinが代表的なアレルゲンであると考えられている事についてお話しました。

しかし、この度私自身もネギ属アレルギーの患者さんを経験したためネギ属アレルギーに関する論文を集中的に読んでみたところ、LTPがネギ属アレルギーの発症に関与している事を論じた論文が意外に多く存在している事に気づきました。一例を挙げますと、モモから抽出したLTPとタマネギに対して陽性反応を示したタマネギアレルギーの45歳男性症例を報告した論文(Asero R et al:J Allergy Clin Immunol. 2001;108:309-)、モモLTPのPru p 3によって阻害が認められたタマネギアレルギーの22歳女性症例を報告した論文(Enrique E et al:Ann Allergy Asthma Immunol. 2007;98:202)、モモ抽出物で約30%阻害されたが、既知のアレルゲンのうちで熱耐性を有しているのはLTPでのみであるため、LTPが原因アレルゲンであろうと考えた加熱したタマネギ摂取後にアナフィラキシーを発症した35歳男性症例を報告した論文(Albanesi M et al:Adv Dermatol Allergol.2019;36:98-)などが認められました。

これまでLTPは主に果物類などの原因アレルゲンと考えられてきましたが、ネギ属アレルギーの発症にも関与しているとなると、今後LTPの重要性についてますます注目していく必要がありそうですね。

2024年2月12日(月)

IL-4とIL-13では果たしてどちらが重要なのか?

2024年2月12日( 月曜日)

アトピー性皮膚炎の発症に強く関与しているサイトカインとしてIl-4とIL-13との2種類が挙げられますが、この両者間では果たしてどちらがより強くアトピー性皮膚炎の発症に関与しているのでしょうか?先日、IL-13阻害薬であるTralokinumabの全国講演会に参加してきましたので、今回はこの講演会で学んだ知識について紹介したいと思います。

本講演会で九州大学皮膚科教授の中原剛士先生は、IL-4およびIL-13は共にフィラグリンの産生抑制をはじめとする皮膚バリア機能の低下を引き起こすものの、IL-4は主に二次リンパ組織などの中枢で機能するサイトカインであるのに対して、IL-13は主に皮膚局所などの末梢で機能するサイトカインである事を示されました(西日皮膚. 2023;85:5〜15.)。また、アトピー性皮膚炎の非病変部および病変部では正常皮膚に比べてIL-13遺伝子の過剰発現が認められるものの、反面IL-4遺伝子はアトピー性皮膚炎の病変部においてもほとんど認められなかったとのデータ(Koppes SA et al:Int Arch Allergy Immunol. 2016;170:187-193.)や、アトピー性皮膚炎患者の病変部におけるIL-13遺伝子の発現量は急性期に比べて慢性期で増加するのに対して、IL-4遺伝子の発現量は急性期に比べて慢性期では減少すとのデータ(Gittler JK et al:J Allergy Clin Immunol. 2012;130:1344-1354.)も存在しているそうです。

このようなデータから総合的に判断すると、どうやらアトピー性皮膚炎に最も深く関わっているサイトカインはIL-13であると結論づけることが出来そうですね。

2024年1月11日(木)

ミソプロストール(サイトテック®)は食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)の発症を抑制しうるか?

2024年1月11日(木曜日)

今回も、昨年12月に開催された日本皮膚免疫アレルギー学会で学んだ知見を紹介することにします。

島根大学の千貫祐子先生は「蕁麻疹診療update」とのタイトルでご講演をなされましたが、その中でプロスタグランジンE1製剤であるミソプロストールを前投与しておくと、小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)において血中ω-5グリアジン濃度が低下するということを示されました。FDEIAでは食物と運動のみならず、酸性系消炎鎮痛剤(NSAIDs)の服用もまた症状の増強に関与している事が知られています。その機序の詳細に関しては不明ですが、一方NSAIDsの摂取によって発症するアスピリン蕁麻疹という疾患も存在していますが、この疾患の場合にはアラキドン酸カスケードにおいてシクロオキシゲナーゼ(COX)の過剰な阻害が生じることによってプロスタグランジン類の合成が抑制され、リポキシナーゼへのシフトが増強することによって発症に至ると考えられています。

今回、WDEIAにおいてもプロスタグランジンE1製剤の関わりが示されたという事は、FDEIAの発症におけるNSAIDsの関与にはアスピリン蕁麻疹と同様の機序が関係している可能性が示唆されたということになります。FDEIAの発症に実際にミソプロストールが抑制効果を示すのかに関しては今後のさらなる検討課題と考えられますが、千貫先生のご講演を拝聴しながら、FDEIAの発症機序を鑑みる上で大変興味深い問題点だなと感じました。

2023年12月12日(火)

ダチョウ卵黄由来の化粧品の外用により発症した鶏卵アレルギー

2023年12月12日(火曜)

去る12月8日(金)〜10日(日)の期間、クリニックを休診にさせて頂き、舞浜で開催された日本免疫アレルギー学会学術大会に出席してきました。今回も大変興味深い症例発表を数多く拝聴しとても勉強になりましたが、今月はまずダチョウ卵黄由来の化粧品の外用により発症した鶏卵アレルギー症例について紹介させて頂きます。

これはBird-Egg 症候群の亜型と考えられますが、Bird-Egg 症候群については2019年2月の本ブログでも紹介しました。本症は1985年に最初の報告がなされ、セキセイインコ・カナリア・オウムなどを飼っている人がその羽毛に感作した場合に鶏卵アレルギーを続発し、鶏卵の摂取によってアナフィラキシー症状をきたすという疾患です。小児の鶏卵アレルギーでは主に卵白の摂取によって症状を発現しますが、Bird-Egg 症候群は成人に好発し、Gal d 5という鶏卵の卵黄アレルゲンを主要抗原として、むしろ卵黄の摂取によって症状をきたすことを特徴とします。今回、国立病院機構福岡病院アレルギー科の杉山晃子先生たちのグループはダチョウ卵黄由来の化粧品により感作が成立し、その後鶏卵の摂取によって症状をきたした2症例を報告されました。さらに、ダチョウの卵では特に卵白と卵黄との分離が困難であり、immunogloblinYとの名称の60 kDaの分子量の抗原がダチョウの卵によって阻害されたことより、この抗原も発症に関与している可能性について論じておられました。

従来のBird-Egg 症候群ではセキセイインコ・カナリア・オウムなどの羽根の吸入により感作が成立するのに対して、今回の症例ではダチョウ卵黄由来の化粧品の外用によって感作が成立しており、最近話題の経皮感作の重要性を示唆する症例として大変興味深く拝聴しました。

 

2023年11月8日(水)

GRPアレルギーに関する新知見

2023年11月8日(水曜日)

今回も、先月に開催された日本アレルギー学会学術大会で発表された報告から引用させて頂くことにします。

GRP(gibberellin-regulated protein)アレルギーに関しては、2018年6月、2020年1月の本コラムでも述べてきましたが、果物類によるアレルギーの原因アレルゲンとして最近注目されており、特にスギやヒノキの花粉類と交差反応を有しているという点が注目されています。GRPアレルギーの臨床的特徴として、以前に昭和大学皮膚科の猪又直子先生は、1)成人に多く、小児における発症は稀である、2)PR-10やprofilinとは無関係である、3)特に柑橘系果物(モモ、アプリコット、サクランボなど)を中心に多種の果物類アレルギーを発症しうる、4)しばしばアナフィラキシーを発症し、また顔面特に眼瞼腫脹はGRPの感作を予見しうる徴候である、5)時に運動やアスピリン摂取などの共因子が発症に必要である、といった点を挙げておられます(Inomata N:Allergol Intern. 69;2020:11-18)。今回の学会で、順天堂大学小児科の奈須先生達のグループは多種の果物類接種後に食物依存性運動誘発アナフィラキシー様の臨床経過を示した13歳女子症例を、また藤田医科大学ばんたね病院総合アレルギー科の二村先生達のグループは32例のGRPアレルギー症例を集計した結果、1)重症な臨床症状をきたす場合が多い、2)スギ花粉抗原との交差反応性が強い、との報告をなされており、いずれの発表も猪又先生の見解を支持する結果となっていました。

今後、GRPはますます重要な果物アレルギー抗原として認知されると予想され、我々も目を離さずに注目していきたいと考えています。

 

 

2023年10月24日(火)

Pork-Cat Syndromeと牛乳との関連性

2023年10月24日(火曜日)

去る10月20日〜22日に東京国際フォーラムで第72回日本アレルギー学会学術大会が開催されました。私は現地参加することは叶わなかったのですがWebで聴講しましたので、今月から数回は本学会で学んだ新知見について紹介することにします。

Pork-Cat Syndromeに関しては、2017年8月の本コラムで紹介しました。ネコの毛やフケに含まれる血清アルブミン(Fel d 2)に経気道的に感作された後、類似した蛋白構造を有する豚の血清アルブミンであるSus sとの間で交差反応を生じ、豚肉摂取によってアレルギー反応を発症するという疾患です。これだけでも、一見全く無関係と思われるネコの毛やフケと豚肉との間に交差反応性が存在しているいうことに対してビックリなのですが、本学会で小松病院の武輪先生たちのグループはさらに牛乳とも交差反応性を有したPork-Cat Syndrome症例を報告され、牛乳とネコの毛との関係が交差反応に起因していることをimmunoblot阻害試験によって実証されました。従って、今後Pork-Cat Syndromeの患者さんを経験した場合には牛乳にも留意する必要があると考えられます。この様に、全く関係ないと考えられる因子間での交差反応の報告が増加しており、アレルギーに関する“謎”はますます深まるばかりで興味が尽きません。

 

2023年9月11日(月)

モヤシアレルギーについて

2023年9月11日(月曜日)

先日送られてきた「アレルギー」誌2023年8月号では東京医科大学皮膚科の小林先生による「緑豆もやしによるアレルギーの2例」との論文が掲載されており、また9月9日にwebで拝聴した日本皮膚科学会大阪地方会では神戸市立医療センター中央市民病院皮膚科の藤井先生が「もやしアレルギーの2例」との学会報告を行われていたため、“最新よくモヤシアレルギーの報告に遭遇するなあ”と考えているうちに、私自身も過去にモヤシアレルギーについて論文を書いていた事を思い出しました。という次第で、今回はモヤシアレルギーについてお話する事にします。

モヤシには主として、1)大豆モヤシ、2)緑豆モヤシ、3)ブラックマッペモヤシの3種類が存在していますが、近年は緑豆モヤシおよびブラックマッペモヤシの消費量が多いとされています。我が国では特にモヤシは日常的に頻繁に摂取されている食材ですが、過去にモヤシによるアレルギー症例の報告は意外に少ないとの現状です。さらに、過去の報告の大部分は花粉類に対するアレルギーを有しており、かつ他の果物〜野菜類や湯葉・豆腐料理・豆乳などの大豆製品の摂取後にもアレルギー反応を呈していたことより、モヤシ摂取後に生じるアレルギー反応も、花粉類との交差反応により生じる、いわゆるpollen-food allergy syndromeの機序に基づくクラス2食物アレルギーと考えられています。花粉類との交差反応をきたす原因抗原に関しては、既報告ではBet v 1(PR-10蛋白)およびBet v 2(prpfilin)の両者の可能性が報告されており、未だ一定の結論は得られていません。

という次第で、これまでには稀でしたが、最近報告が増加している傾向がありそうですので、モヤシに対するアレルギーが存在していると留意しておくことが必要だと思われます。

 

   

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